パッシブ・プローブの周波数特性補正
パッシブ・プローブの周波数特性補正についてはよく知られています。ユーザーが実施する作業で、オシロスコープのフロント・パネル等に設けられているプローブ補正用信号にプローブを接続し、プローブに内蔵のトリマを調節して、表示される波形が「きれいな矩形波」になるようにするものです。
実はこの調整は Low Frequency Compensation と呼ばれているものです。Low FrequencyがあればHigh Frequencyもありそうですね。調べてみると…
- Keysight N2873A 500MHz 10:1 Passive Probeのユーザー・ガイド(参照1)ではLow-Frequency Compensationの項目のみがあります。
- 同じKeysightでも少し古い型の1164A 500MHz 10:1 Miniature Passive Oscilloscope Probe のユーザー・ガイド(参照2)ではLow-frequency compensationに加えてHigh-frequency compensationの項目があり、必要な場合には調整が可能です。その記述を引用してみると、以下のように、推奨のオシロスコープで使う限りはHF compensationは不要となっています。
"High-frequency compensation is not required if you are using the probe that is recommended for your oscilloscope. "
このユーザー・ガイドの調整手順を読むと、HF compensationでも手順に大きな違いはありませんが、プローブへの信号入力が50Ωフィードスルーを使う等、より高周波に対しての考慮が見受けられます。
HF compensationが何を補正するのかは別途調べてみたいと思います。
参考1: N2870A-Series and N2894A Passive Probes User’s Guide, N2876-97002, April 2016
https://literature.cdn.keysight.com/litweb/pdf/N2876-97002.pdf?id=1740733
参考2: Agilent 1160 Series Miniature Passive Oscilloscope Probes User’s Guide, 01160-92009, November 2006
https://literature.cdn.keysight.com/litweb/pdf/01160-92009.pdf?id=1000002641-1:epsg:man
帯域幅を確認する簡易的な方法
オシロスコープの入力帯域幅を確認する簡易的な方法がキーサイトのブログで紹介されています。
How to measure your oscilloscope (and probe)... | Keysight Community
手順としては
- 高速なステップ波形をオシロに入力する
- オシロに内蔵の演算機能で入力波形を微分する(演算結果はインパルス波形になる)
- 微分された波形のFFTを表示する
- FFT結果でDC付近のレベルから3dB低下する周波数を求める
あくまでもこの方法は簡易的な方法で、正確には各メーカーが指定する方法で確認する必要があります。
この方法の優れた点は
- ステップ波形だけで評価できる
- プローブも含めた特性を評価できる
という点にあります。ステップ波形としては評価するオシロスコープの立上り時間性能よりも2倍以上速い信号を推奨する、と上記記事では紹介しています。
オシロスコープの性能(3)デジタル・オシロの種類
デジタル・オシロスコープは動作原理の違いで2種類に分けられます。
リアルタイム・サンプリング・オシロスコープ(realtime sampling oscilloscope)は入力信号の基本周波数よりもずっと高い周波数でサンプリングしA/D変換する構造です。一般的に使われているデジタル・オシロスコープはこのタイプです。
もう一方の等価時間サンプリング・オシロスコープ(equivalent-time sampling oscilloscope)では入力信号の基本周波数よりもずっと低い周波数でサンプリングしA/D変換する構造です。このタイプのオシロスコープは波形情報を一気に収集するのではなく、同じ波形が繰り返すことを前提に、位置を少しづつずらしながら1点1点サンプリングする動作を繰り返し、最終的に波形全体を取得します。
リアルタイム・サンプリング・オシロスコープの帯域幅がA/Dコンバータの動作速度で規定されてしまうため、広帯域のオシロスコープには高速A/Dコンバータが欠かせません。設計思想にもよりますが、帯域幅の2.5倍から4倍程度高速なA/Dコンバータが使われます。つまり広帯域のリアルタイム・サンプリング・オシロスコープには超高速のA/Dコンバータが必要です。
等価時間サンプリング方式では帯域幅とA/Dコンバータの速度には制約がありません。このため数10GHzの帯域の信号を数100kHzのA/Dコンバータで捕獲します。このためA/Dコンバータのビット数も多いものが利用できます。なお、サンプリングのタイミングは精密にコントロールされる必要があり、サンプリング専門の回路(サンプラ)が重要な役割をもっています。
使い分けとして、過渡的な現象の観測にはリアルタイム・サンプリング方式が必須です。また超高速信号の観測には等価時間サンプリング方式しか選択肢がありません。一般的な利用にはリアルタイム・サンプリング方式のオシロスコープが使いやすく、広く普及しています。
オシロスコープの性能(2)オシロスコープの種類(アナログとデジタル)
オシロスコープの種類は大きく分けて
があります。
デジタル・オシロスコープは、A/Dコンバータ(analog-to-digital converter)とメモリを中心に構成されていて、A/Dコンバータによって入力信号(アナログ量)をデジタル・データに変換してメモリに蓄積する方式です。
アナログ・オシロスコープは入力から表示までA/Dコンバータを介さずに、アナログ回路によって処理します。表示にはCRT(cathode ray tube)が使われます。CRTは真空管です。
アナログ・オシロスコープはすべてがアナログ回路で処理されていることからリアルタイム性に優れ、信号の動きを目視で観測しやすい点が特長です。ただし、高周波信号に対応するには高性能なCRTが必要なため高額になります。また観測結果の活用(記録や結果の加工)や自動化もアナログ・オシロスコープでは困難です。このような理由から、現在ではデジタル・オシロスコープが主流になっています。
もっとも、デジタル・オシロスコープの内部はA/Dコンバータまでの経路はアナログ回路ですし、クロック回路やトリガ回路など、しっかりとしたアナログ技術が必要です。この意味では、デジタル・オシロスコープといえどもアナログ技術の重要性に変わりはありません。
オシロスコープの性能(1)帯域幅
オシロスコープの重要な性能指標として帯域幅があります。ざっくり言えば、どこまでの周波数の信号を測定できるのかの指標です。
正確には「入力周波数帯域幅」。一般にその定義は、入力された信号電圧が3dBだけ小さく表示される周波数を指します。つまり、オシロスコープでは入力信号の周波数によっては電圧振幅が正しく表示されず、高周波ほど減衰して表示されるため、その指標として3dBだけ小さくなる周波数を入力周波数帯域幅として仕様化しています。
3dB減とは約0.7倍ですから、帯域幅に相当する周波数では入力信号が3割ほど小さく表示されることになります。
では、帯域幅の周波数でいきなり70%になるのかというと…YesとNoの場合があります。一般的に、周波数帯域幅が数GHzのオシロスコープはYes、つまりいきなり70%になります。それ以下の周波数帯域幅の機種では「徐々に」70%になります。この「どのように」70%になるかの様子は「帯域特性」と呼ばれます。詳細は別途紹介したいと思います。